正社員になれるかも知れないと考えて入社した契約社員になった人も少なくないのではないでしょうか。入ってみたら状況は全く違っていたと感じてる人も多いでしょう。
実際に契約社員から正社員になれる人はどれくらいいるのか、正社員になることを期待して入ったのになれないことがわかり退職の道を選ぶ際にはどんな問題があるのかを解説します。
目次
正社員になれる可能性は?正社員登用制度の実態

派遣社員に比べると直接雇用の契約社員は正社員になれる可能性が高いイメージがあります。実態はどうなのか、どんなケースがあるのかを見てみます。
正社員になれるケースはそんなに少ない?

厚生労働省の調査によると、従業員数が300人以上のいわゆる大企業(中小企業基本法の資本金、業種要件を除く)では7割以上の会社に正社員登用制度があり、6割前後の会社が正社員に登用した実績がある(制度のあるなしに関わらない)という結果が出ています。

業種別に見てみると医療・福祉関連では正社員登用制度、登用実績ともに7割以上と高くなっています。一方で、生活関連サービス・娯楽業、宿泊・飲食サービス業、金融・保険業では8割以上の会社が正社員登用制度がありながら、実際に正社員に登用した実績のある会社は4~5割と少ない割合です。
ただし、上記2つのグラフの登用実績は「実績があるかどうか」のみの割合であり、何人正社員になったのかは不明です。実際に非正規社員のどれぐらいの割合が正社員になったのかはわかりません。
この調査で興味深いのは、正社員登用制度がありながら、2017年2月から2018年1月までに登用した実績のない会社についてその理由を聞いているところです。
- 正社員を募集(又は必要と)しなかった・・・27%
- 正社員を募集(又は必要と)した・・・72%
72%の「正社員を募集(又は必要とした)」会社のうち、それでも登用しなかった理由として、
- 正社員以外の労働者から募集しなかった・・・7%
- 上司等からの推薦がなかった・・・10%
- 正社員以外の労働者から応募がなかった・・・41%
- その他・・・19%
- (複数回答)
となっています。
登用したいと考えた会社が7割あったにも関わらず、登用実績がなかったのは、非正規労働者からの応募がなかったからと4割の会社が回答しています。
これらの結果から見ると、非正規から正社員になれる制度が6~7割ぐらいの会社が持っていて、大まかに半分ぐらいの会社で非正規から正社員に登用した実績があるのです。労働者側に制度に応募する意欲があれば、正社員になる道も閉ざされたものではないということが言えるのではないでしょうか。
契約社員から正社員への具体例
非正規社員の正社員化や人材活用 のための各種取組を行う企業事例について「多様な人材活用で輝く企業応援サイト」というサイトで紹介しています。
そのなかから、いくつかの事例をあげてみます。
会社名 | 本社(業種) | 正社員登用制度の内容 |
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㈱りそな銀行 |
大阪府 (金融保険) 正社員:9,515名 契約社員:5,900名 派遣社員:150名
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㈱亀屋万年堂グループ |
東京都 (製造) 正社員:153名 契約社員:54名 嘱託社員:15名 アルバイト187名 |
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㈱星野リゾート・トマム |
北海道 (宿泊・サービス) 正社員:222名 契約社員:21名 アルバイト:14名 派遣社員:64名 |
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契約社員が辞める時のお金の問題

契約社員から正社員になれる可能性について述べましたが、希望するだけで実現できる選択肢でないことは言うまでもないでしょう。会社側の対応や労働者側の能力など一概に言えませんが、登用制度である以上選抜されることは必然であり、選ばれなかった人が多くなるのも当然のことです。
さらに、待遇や環境、やりがいなど働き方の問題は契約社員か正社員かの二者択一で解決する話でもありません。契約社員の立場から退職を選ぶ場合について解説します。
契約社員は退職金が貰えないケースが多い
労働者に対する賃金の支払いに関して、退職金を支払わなければならないという法律上の決まりはありません。就業規則の賃金規定のなかに退職金を設けた場合には、支給金額の計算方法や支払いの期日、対象となる労働者の種類も同時に規定されます。
退職金は終身雇用を前提とした長期間の勤続を奨励するための賃金の後払いといった性格を持っています。定年まで数十年という期間を対象に定めるものであったことから、契約社員や派遣社員の数ヶ月から数年といった短期間で契約が終了する労働者が、退職金の対象とする範囲に含まれないのは仕方のないことかも知れません。
しかし、有期雇用の労働者が契約を更新することで退職金が発生する最低勤続期間に達することも出てきますし、実際に契約社員に対して退職金を支給する会社もありますが、その数は少ないのが現実のようです。
契約社員が辞めた場合の失業給付は
失業給付の受給要件に関して契約社員だからといって変わることはありません。雇用保険を過去にさかのぼり通算して12ヶ月以上納めていることが前提となり、自己都合か会社都合か、契約期間満了での退職かによって、3ヶ月の給付制限がつくかどうかが決まります。
会社都合の場合と労働期間が3年未満の契約期間満了での退職の場合には給付制限がつきません。
自己都合による退職と労働期間が3年を超えてからの契約期間満了での退職は3ヶ月の給付制限がつくことになります。
契約社員の退職は時期・タイミングが重要

契約社員は期間の定めのある雇用契約であり、契約期間途中の退職に制約があったり、退職の時期により失業給付の受給要件が変わります。いつ辞めるかは慎重に検討する必要があります。
契約期間満了の場合
期間の定めのある労働契約である契約社員は契約期間が終われば、その労働契約は自動的に解除されます。労働者側、会社側の思惑に関係なく労働契約が解消されるので最もスムーズに退職手続きを進められるタイミングです。
契約社員の雇用期間は最大5年、それを超える場合には無期雇用に転換しなければならないことが 労働契約法に定められています。無期雇用になる場合は正社員になるか、それ以外の形態の無期雇用契約を結ぶかは選択でき、労働者側からの申込みが必要ですが、時期が近づけば会社側から何らかの通知があるはずです。
もっとも、5年を迎える前に契約更新を終了させて雇い止めをするケースもあるようなので、3年以上の労働期間があり5年目の更新で雇い止めされそうな雰囲気があれば、その間の更新のタイミングを待って会社都合の契約期間満了で退職すれば、失業給付の給付制限期間がはずれることになります。
契約期間が1年以上経過している場合
期間の定めのある雇用契約では、契約期間中の労使どちら側からの契約解除は契約を破ることになります。従って、契約期間中に労働者側から退職を申し出ることは次の項目で述べる「やむを得ない理由」がない限りできないことになります。
更新を経て1年以上の労働期間がある場合は契約の途中であっても、期間の定めのない雇用契約と同様に14日前に申し出ることで、退職することができるようになります。
契約途中の場合
前述のとおり、契約途中の退職は認められないのが原則です。しかし、働けない状況になることもあり得るため、その理由を限定しています。
「やむを得ない理由」がある場合のみ辞めることができる
労働者側から雇用契約を解除できるやむを得ない理由としては、
- 会社側の労働基準法違反
- モラハラ、パワハラなどによる職場環境
- 労働者の体力低下
- 家族の要因による通勤困難
- 交通手段の喪失
などが該当します。
契約不履行は損害賠償の可能性?
民法628条に契約の解除の際、労使どちら側かの過失がある場合に損害賠償を請求できることが書いてあることから、契約社員が契約途中で辞めると損害賠償を求められる可能性があるといったことが言われますが、実際にはほとんどありません。
1992年に判例がありますが取引に関連した雇用契約など特殊な例であり、一般的な契約社員の退職で損害賠償請求に発展する可能性はないと言えます。会社の事業収益を大きく左右するような仕事をしている契約社員でない限り、損害賠償請求するメリットはないからです。
退職の意思をいつ誰に伝えるか
前に述べたとおり、1年以上の労働期間がある場合は退職する日の14日前までに、会社側の担当者または直属の上司などに伝えます。特に「退職届」など書類は必要なく、口頭で事足りるとされています。
契約途中での退職をしなければならない場合は、会社側からその理由を証明するための書類を求められたり、理由となる状況を詳細に確認されることが考えられます。
いずれの場合も人事担当者や直属の上司、職場の同僚などに理解を得ることが重要になるので、自分が退職した後の人員配置や引き継ぎなど、余裕を持った日程で会社側に退職の意思を伝え、指示に従うほうが手続きをスムーズに運べます。
退職については以下の記事もご覧ください。
契約社員が退職するにあたりトラブルになりやすいのは?

人手不足のなかでの退職はなにかとトラブルになりやすい要素をはらんでいます。引き止めや有給休暇の取得を拒否された場合についての対処法です。
引き止めや退職を認めてくれない場合
退職に不当な条件を付けられたり、無理な雇用継続を強要される場合は法的手段を取ることも考えられます。
退職届を受け取ってくれないような場合には内容証明郵便を送付する方法や、会社側が話し合いに応じない場合には、裁判よりも利用しやすい労働審判手続きという制度があります。
労働審判手続きは地方裁判所に申し立てを行い、当事者と労働審判官1名、労働裁判員2名で審理を行い、原則3回以内で迅速に調停を行うための制度です。賃金の不払いといったケースに向いている方法で全体の8割前後が解決していると言われています。申立は当事者本人でもできますが、弁護士を付けたほうが有利に進められます。弁護士費用がかかるのが難点です。
有給休暇の消化は?
6ヶ月以上の労働期間があり有給休暇が発生していれば、労働者には有給休暇を取得する権利があります。労働者側の有給取得の申請を会社側は拒否することはできませんが、繁忙期である場合など、有給休暇の時期を変更することができるとされています。
退職日までの有給休暇取得は時期を変更するといっても先延ばしにはできないことから、一般的には認められるケースがほとんどです。
有給休暇の買取は原則としてできませんが、退職時の未消化分の買取は例外となっています。会社により対応が異なる部分なので有給休暇取得に難色を示された場合に交渉の余地があれば打診してみることも有効です。
繁忙期や人手不足のなかで辞められることは会社側としては迷惑ですし、労働者側もある程度長い期間働いていれば事情を把握できると思います。しかし、権利として認められていることなので、有給休暇取得を受け入れてくれない、あるいは、それを理由に退職に対しても不当な条件を付けられるといったことがあれば、労働基準監督署に相談したほうがいいでしょう。
以下の記事も参考にしてみてください。
この記事の情報は2019/10/08時点のものです。
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