年金は制度自体が複雑でわかりにくいものです。特に会社勤めの人に関係が深い厚生年金は会社任せになってしまいがちですが、老後の大切なお金ですから、ちゃんともらうために少し勉強してみましょう。
目次
厚生年金は雇われている人が加入しなければならない公的年金

厚生年金は国民年金にプラスアルファされてもらえる年金で、会社勤めや公務員など雇われている人を対象とした公的年金です。
被用者・被保険者について
雇われて給料をもらっている人を被用者と言います。厚生年金は被用者を対象としています。被用者は保険料を支払って年金を受け取りますが、保険金を支払い保険金を受取る人を被保険者と呼びます。
強制加入について
被用者となった時点で厚生年金に自動的に加入することになり給料から天引きされ保険料を支払います。この点で被用者は厚生年金に強制的に加入させらるということになります。被保険者が給料から控除される保険料は、被保険者が納付する保険料の1/2であり、残りの1/2は会社が負担しています。
被用者の保険料を折半して支払う会社(事業所)も、従業員を厚生年金に加入させることを義務付けられており、違反した場合には罰則が課せられます。
厚生年金を適用しなければならない事業所には要件が定められています。
- 法人の場合(1人会社でも適用)
- 5人以上の従業員を雇用している個人事業所
上記の条件を満たせば厚生年金適用事業所となり、正社員と正社員の労働時間と労働日数の3/4以上に達する労働者を厚生年金に加入させなければならないことになっています。
これに加え、2018年から従業員数が501人以上の事業所に対し、以下の要件を満たす労働者についても厚生年金に加入させることが義務付けられました。
- 所定労働時間が20時間/週以上
- 1年以上の雇用見込み
- 月額賃金が88,000円以上
- 学生を除く
- 従業員数が501人以上の事業所
公的年金のひとつ厚生年金

厚生年金とともに国民年金も強制加入が義務付けられている公的年金です。国民年金は20歳以上60歳未満の日本在住のすべての人が加入する年金で、厚生年金に入っていれば国民年金にも入っていることになります。被用者以外の人は国民年金のみなので老齢基礎年金(定額)しかもらえませんが、被用者はそれプラス、老齢厚生年金(所得比例)が上乗せされた年金をもらうことができます。
加入者の分類

公的年金の加入者は3種類に区分されます。保険料を納付し年金を受け取ることができる加入者を被保険者と呼びます。
第1号被保険者
被用者(第2号被保険者)と被用者に扶養されている配偶者(第3号被保険者)以外の人が該当します。厚生年金に入っている人とその人に扶養されている配偶者以外の人です。自営業者やパート・アルバイト、20歳以上の学生も当てはまります。
第1号被保険者は国民年金に加入することになりますが、国民年金に加入できる年齢は20歳から60歳までです。
2019年度の国民年金の保険料は月額16,410円です。保険料は毎年見直しされています。
第2号被保険者
この記事のテーマである厚生年金に入らなければならない人が第2号被保険者です。雇われて給料をもらって生活しているサラリーマンや公務員が該当します。
第2号被保険者が厚生年金に加入できるのは下限の年齢制限がなく70歳までです。中学を卒業して15歳で会社員になった場合も厚生年金に入ることになります。
厚生年金の保険料率は18.3%で31段階に区分された標準報酬月額に保険料率を乗じたものが厚生年金保険料として給与から控除されます。
第3号被保険者
第2号被保険者に扶養されている配偶者が第3号被保険者です。サラリーマンの妻というイメージです。第3号被保険者は厚生年金、国民年金の保険料を免除されます。
被用者に扶養されている配偶者であることが条件で、配偶者の年収が130万円以上ある場合は扶養から外れ、第1号被保険者として国民年金に加入しなければなりません。
厚生年金の保険料については以下の記事もご覧ください。
2階建て部分ももらえる厚生年金

厚生年金は保険料を半分会社に出してもらって、年金を受取る際も老齢基礎年金(定額部分)に老齢厚生年金(所得比例部分)も加算されるので、国民年金と比べるとその保障は手厚いと言えます。
老齢基礎年金
もらえる年金のうち国民年金加入者、厚生年金加入者ともに同じ金額を貰える部分です。保険料の支払いを免除されている第3号被保険者がもらえるのも老齢基礎年金の部分です。
20~60歳まですべての保険料を納付し、2019年に65歳を迎えて年金の受給が開始された場合に受け取れる老齢基礎年金(満額)は65,008円/月額です。
老齢厚生年金
第2号被保険者は老齢基礎年金に加えて、老齢厚生年金を受け取ることができます。
年金を受取るためには資格期間が必要

これまでは老齢年金を受け取るために必要な保険期間は25年でしたが、2017年8月から10年に変更されました。
年金の受給要件
厚生年金加入者(第2号被保険者)が受け取る年金は老齢基礎年金と上乗せ分の老齢厚生年金です。老齢厚生年金の受給要件は老齢基礎年金の受給要件を満たしていることが条件となります。
老齢基礎年金の受給要件は保険料納付済期間と保険料免除期間の合計が10年以上あること、老齢厚生年金の受給資格は厚生年金の被保険者であった期間が1カ月以上あることとなっています。
国民年金加入期間と厚生年金加入期間の合計が10年以上あれば加入要件を満たしていることになります。
60歳以降も厚生年金に加入する場合
20~60歳まで国民年金の加入期間が40年間(480カ月)であれば、老齢基礎年金は満額の780,100円(2019年4月分から)となります。加入期間が480カ月に満たない場合に60歳以上65歳未満の5年間に国民年金の保険料を納めることができる任意加入制度があります。
60歳以降も国民年金と厚生年金加入期間合わせて480カ月になるまで厚生年金に加入することで、国民年金の加入月数を増やすことができます。65歳以降厚生年金に加入して国民年金の加入月数を増やすことができるのは国民年金の受給要件の10年間に満たない場合のみとなります。
70歳以上の場合は、受給資格期間を満たしていない場合のみについて高齢任意加入被保険者となることができます。高齢任意加入被保険者の保険料は会社側が半額負担に同意した場合以外は、被保険者の全額負担となります。
加入者の種類を異動した場合の切り替え

就職した場合、サラリーマンを辞めて自営業を始めた場合、結婚した場合など被保険者としての区分が変わることになります。国民年金と厚生年金を異動することになるため手続きが必要になります。
切り替わるケース
就職や退職など第1号被保険者と第2号被保険者間で異動がある場合、結婚により第2号被保険者から第3号被保険者になる場合、専業主婦が仕事をはじめて第3号被保険者から第1号被保険者、または第2号被保険者に異動するケースなどがあります。
切り替えの手続き
被用者として第2号被保険者となった場合、また、退職したときの厚生年金の資格喪失手続きは会社が行います。雇用主は5日以内にその手続を行うことが義務付けられています。
退職した本人は自分で国民年金への加入手続きを行わなければなりません。手続きは退職の日から14日以内に行わなければならないと定められています。
結婚し配偶者が第3号被保険者となる場合は、第2号被保険者である扶養者が勤務先の会社を通じて手続きを行います。
将来の年金受給額はどうやったらわかる?

年金は将来に備えるための大切なお金なので、老後の準備を考える上でもいつからどれくらいの年金がもらえるのかを知っておきたいものです。長い期間をかけて関わる制度でもあり、その記録や自分の年金情報はきちんと確かめておくべきでしょう。
老齢厚生年金の簡単な計算方法
老齢厚生年金の報酬比例部分は以下の方法で計算されます。

上記のA、Bに分かれているのは平成15年4月以降は賞与も保険料の徴収対象になったことによるものです。
標準報酬は給与の金額を一定の幅で等級に区分して、幅のある金額の等級に対して1つの金額を割り当てたものです。
大まかな計算としては以下のように考えることができます。
- A:給与月額のみ ✕ 加入月数 ✕ 7.125/1000
- B:賞与を含んだ年収/12 ✕ 加入月数 ✕ 5.481/1000
- 報酬比例部分 = A+B
新卒で就職してずっと厚生年金に入っていると仮定した場合、2019年時点で39歳以下の人は、年収 /12 ✕ 加入月数 ✕ 0.55% が報酬比例部分のもらえる年金(年額)ということになります。
自分の年金額を知る「ねんきん定期便」「ねんきんネット」
日本年金機構では郵送によるねんきん定期便とインターネットで年金記録を見ることができるねんきんネットで、制度への理解と年金記録の確認を促しています。
ねんきん定期便
日本年金機構では年金加入者の誕生月に年1回のハガキ、また、35歳、45歳、59歳に封書で年金に関わる個人情報を送付しています。50歳未満に対しては「これまでの加入実績に応じた年金額」、50歳以上には「年金見込額」の内容がねんきん定期便として送られてきます。
ねんきんネット
自分の年金記録をネットで見ることができるねんきんネットも開設されています。
会員登録はサイトのフォームから年金番号、氏名、住所などを入力し、申し込むとユーザーIDが郵送されます。ユーザーIDでサイトにログインします。
ねんきん定期便に記載されているアクセスキーがある場合には、その場でユーザーIDが発行されます。
受給額については以下の記事もご覧ください。
年金はいつからもらえるの?

年金の支給開始年齢は65歳です。以前は60歳であったことから60歳から65歳の間に老齢年金が支給される経過措置が取られています。
年金の支給開始年齢は65歳から
1985年の制度改正でそれまで60歳であった年金の支給開始年齢が65歳に変更されました。それに伴う経過措置として、生年月日が男性は1961年(昭和36年)4月1日、女性は1966年(昭和41年)4月1日以前の人について、60歳から65歳までの間、「特別支給の老齢厚生年金」が支給されます。
定額部分と報酬比例部分の年数は年齢により異なり以下のようになっています。

特別支給の老齢厚生年金の受給資格
老齢厚生年金の受給資格が老齢基礎年金の受給資格期間を満たしていることに加えて厚生年金の加入期間が1カ月以上なのに対し、特別支給の老齢厚生年金の受給資格は、厚生年金の加入期間が1年以上あることが条件となっています。
加給年金と振替加算
厚生年金の被保険者期間が20年以上ある人が65歳の受給開始年齢に達した時点で扶養する配偶者、子どもがいる場合に加給年金として以下の金額が加算されます。加給年金を受給するためには申し込み手続きが必要になります。
- 配偶者は65歳未満(被保険者より年下であること)・・・224,500円(年額)
- 18未満のこども(第1子、第2子)・・・各224.500円(年額)
- 18未満のこども(第3子以降)・・・各74,800円(年額)
妻が65歳に達し、年金の受給が開始されると加給年金は打ち切られますが、妻が受給する年金に振替加算が上乗せされます
加給年金と振替加算は配偶者に厚生年金の加入期間が20年以上ある場合は受給資格がありません。
繰り上げ受給と繰り下げ受給
年金の受給開始は65歳から前倒しすることと、後に伸ばすことが可能です。前者を繰り上げ受給、後者を繰り下げ受給と言います。
繰り上げ受給は60~64歳までの間、繰り下げ受給は66~70歳までの間の1カ月単位で申し込むことができます。
本来の受給額から、繰り上げ受給は0.5%/月減額され、繰り上げ受給は0.7%/月増額されます。
繰り上げ受給は、障害基礎年季、寡婦年金の受給資格がなくなることに注意が必要です。
在職老齢年金
「60歳以降も厚生年金に加入する場合」で国民年金部分の加入月数の不足分を補填できることを述べましたが、年金をもらいながら働く場合に給与収入が一定額を超えると年金受給額が減額されます。
- 60~64歳:28万円<基本月額(加給年金を除いた年金支給額)+給与収入/月
- 65歳以降:47万円<基本月額(加給年金を除いた年金支給額)+給与収入/月
上記の条件を満たした場合、年金が減額されます。
在職老齢年金については、厚生労働省で見直しが検討されており、2021年にも廃止されるといった見方も報道されています。
年金について詳しいことは日本年金機構のこちらのページをご覧ください。
この記事の情報は2019/10/17時点のものです。
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